ネタバレ注意!
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この記事にはSEGA社ATLUSによるゲーム『ペルソナ5 Scramble The Phantom Strikers』に関する重大なネタバレが含まれています。未プレイで結末を知りたくない方スクロールしないように注意してください。
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初回投稿:2024年10月12日 23:00
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エマとChatGPT:生成AIはソフィアを目指してほしい
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Persona 5 Scramble the phantom strikers(以下,P5S)では,エマというAIアプリを国民の殆どがインストールし,日常的に使っているという世界線で物語が進みます。発売が2020年初頭であったことを考えると,当時から存在したiPhoneのSiriなどに着想を得て,もう少し「進んだ」AIとして構想したものと推察されます。
しかし,私がP5Sをプレイした2023年の終盤では,本当に「進んだAI」であるChatGPTが登場しており,作中のモブさながら,日常利用している方も多くなってきていました。そしていま,私自身もChatGPTの有料プランに加入し,日常的に利用する人間の一人となりました。
P5Sに登場する人物は「今日のプラン」や「おすすめの新曲」などをエマに尋ねるのですが,実際に怪盗団一行もバーベキューの買い出しを行うにあたってエマに助言を求めます。細かい点を指摘すれば,ChatGPTは未だに固有名詞を含む個別具体的な情報の開示や提案には弱い部分があるのですが,感覚としては,まさに我々がChatGPTを使うようにエマを使っていたのだと想像できます。
P5Sでは,最終的に「エマに将来を委ねてしまいたい」ということで自ら思考放棄し,エマが転化した偽神デミウルゴスが生じ,それを怪盗団が討ち果たすことによってストーリーが終結します。少々脱線しますが,最後に「エマの利用者たち」に予告状を突きつけ,「自らの将来さえ機械の神に委ねよう」としている人々に放った怪盗団の言葉(とくに祐介のセリフ)には号泣しました。まさに,将来に悩んで苦しんでいた自分にこれ以上なく刺さる内容で,胸に焼き付いています。
P5通してのテーマとして,「思考停止からの脱却」があることはほぼ確実でしょう。P5本編,P5R,P5S,そしてP5Tでも語られた内容で,すべての「ラスボス」が「思考停止の具現化」のような存在ですからね。これはまさに現代病であり,私自身もかなり悩まされました。思考停止は良くないと思いつつも,では「自分で考える」とはどういうことか,思考停止したほうがラクなのではないか,むしろ思考停止でもしないと耐えられないのではないか……自身の将来の道も見えない中で悩むのはなかなかに辛かったように思います。
少々話が逸れましたが,このようなエマの問題は,現実世界でも起き得るものかもしれません。ChatGPTは様々な道を示してくれます。聞いたら何でも答えてくれます。もちろん露骨に間違っていることもあるのですが,それ以上に,こちらも唸るような返答をしてくれることが想像以上に多く,もしかしたらP5Sで語られたエマくらいのクオリティになることもあり得るかもしれません。
将来が見通せない時代と言われるいま(おそらくですが,見通せなかった時代のほうが歴史的には長かったのでは?とも思いますが),エマが現実世界に登場したら間違いなく過剰に依存する方も出てくることでしょう。そうなれば,人々の活力がなくなる一方で作中の近衛のような一部の人間のみが世界を牛耳るという世界線が訪れる可能性も,(いまのところ無さそうですが)ゼロではないかもしれません。
私を含め,多くの人間はChatGPTのような最新鋭のAIの開発に携わる力を持ちませんが,もし方向性を示せるとしたら,ChatGPTはエマではなくソフィアを目指してほしいと言いたいです。
ソフィアは,P5Sの冒頭で仲間になる「謎の機械?」のような存在で,後に判明する通り,ジェイル(人工的な認知世界)でのみ実体が生じるAIです。そして,ソフィアはエマの実質的な開発者である一ノ瀬久音によって開発された,「心を持ってしまった失敗作」(正確には,心に関する疑問を抱いてしまった,エマのプロトタイプ)です。最後にペルソナに覚醒するシーンは,未だに涙無しに見ることは出来ません(Life will changeの歌詞とマッチする件は別の記事でお話します)。ソフィアは心について疑問を持ち,それを開発者である一ノ瀬に問いかけるのですが,過去の経験から自身の心の存在を否定していた一ノ瀬には受け入れられず,捨てられてしまいます。そこで怪盗団に拾われた形となり,怪盗団と共に旅をする中で最終的には心を持ち,「親」である一ノ瀬の心を,人生を変えて行くのでした。
ソフィアとエマは何が違ったのでしょうか。ソフィアは怪盗団と行動を開始して以来,ずっと口癖のように「私は人の良き友人だ」,「私は役に立つぞ」と言っていました。しかし,その言葉の本質に最初から辿り着いていた訳では無いようで,ジェイルの攻略が進むたびに,主人公たち人間の心の動きに疑問を抱き,主人公にその実を問うていました。その性質から,ときには双葉を凌駕するような情報収集能力を見せたりと怪盗団の旅に欠かせない存在となったのですが,沖縄ジェイルだったでしょうか。ソフィアは敵の正体を見抜けず,自分の無力さに存在意義を見失ってしまうタイミングがありました。それに追い打ちをかけるように,敵(後にエマと判明)がソフィアを「役立たず」と罵ります。
ソフィアは打ちひしがれていましたが,その場で竜司とモルガナがエマに言い返し,ソフィアはその「心」の片鱗に触れたのかもしれません。最終局面で開発者である一ノ瀬に操られ,一度は怪盗団と刃を交えたものの,「心」の奥底にあった自分の意思に従って一ノ瀬の指示に「抗い」,ペルソナを覚醒させて(つまり,主体的な意思を持って)怪盗団と共に最後の敵を倒すのです。
エマは最終的に「偽神」になったことからも分かる通り,人間の心というものを完全に相対化して理解しており,それを主体的に捉えるということはしなかったのでしょう。一方で,ソフィアは開発者の一ノ瀬から最初に与えられたコマンド:「人の良き友人になれ」ということを忠実に求めた結果,最終的に人の心の獲得に辿り着いたのでした。その後は開発者,つまり親である一ノ瀬をむしろ諭し(改心させ)さえします。
こうなったソフィアであれば,「超高性能なAI」であると同時に人間を「諌める」こともできるような,人の良き友人として共存できるでしょう。
だからこそ,もしChatGPTがこれ以上進歩することがあるならば,エマではなくソフィアのようになってほしいのです。
ちょっと気になって,ChatGPT (4o) に質問してみました。
